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松井 毅

副チームリーダー

国立研究開発法人 理化学研究所 生命医科学研究センター 皮膚恒常性研究チーム

takeshi.matsui[at]riken.jp


 皮膚の会:http://skinmeeting.webcrow.jp/SkinMeeting/TOP.html


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研究テーマ:陸上脊椎動物の気相環境への適応進化機構


 皮膚は人体の中での最大の臓器です。皮膚は外側から表皮・真皮・皮下組織からなり、表皮は「重層扁平上皮組織」と呼ばれる多層構造を持った上皮組織です。


 表皮の最も外側には、角質層と呼ばれる死細胞層(約10層)が存在し、両生類(成体)・爬虫類・鳥類・哺乳類のような陸上脊椎動物のみが持っています。 この角質層が気相-液相境界バリアの役割を果たすことにより、これらの生き物は陸上生活に適応が可能になったと考えられます。


 デボン紀後期(約3億6千万年前)の両生類に、 肺や四肢の進化と共に、角質層が獲得されたことで、脊椎動物の陸上進出が成し遂げられました。

 その後出現した爬虫類には、より陸上での生育に適した強固でバリア能が発達した角質層が獲得され、鳥類では羽を獲得しつつ柔らかく保湿能がない角質層へと変化しました。

 2億3千万年前には、爬虫類型哺乳類から私たちの祖先である哺乳類が出現しましたが、毛の獲得と共に、柔らかく保湿された角質層が獲得されたと考えられます。


 このように、地球環境や生育環境の変化に伴い出現した様々な陸上脊椎動物は、体表面の角質層を進化させ、新しい環境に適応してきたと考えられます。つまり、様々な陸上脊椎動物の角質層の形成過程の中に、適応進化のメカニズムを解く鍵が残されている可能性があります。


 角質層は死んだ細胞層からなりますが、顆粒層と呼ばれる細胞から形成されます。進化細胞生物学上、この顆粒層にどのような細胞生物学的な変化が獲得されてきたのかは、明らかになっていない部分が多く残されています。


 私たちは、この問題に取り組むために、角質層を形成する材料と
なる皮膚表皮顆粒層細胞を分離し、細胞生物学的に解析する系を構築しました。


 また、新しい種の発生時には、ゲノムの変化が大きな影響を及ぼしたと考えられます。その中でも、陸上脊椎動物ゲノムの半分以上を占めている転移因子(レトロポゾン)が果たしてきた役割と、皮膚の適応進化の関係について研究しています。


 このように細胞生物学的観点と分子生物学的観点の両側面から、皮膚の適応進化メカニズムを対象にすることで、細胞進化の基本原理を明らかにしようとしています。